酒を嗜む方であれば誰もが知っているブランド“Hennessy(ヘネシー)”。世界の高級ブランド・ビジネスをリードするLVMH(モエヘネシー・ルイ ヴィトン)グループの一部門であり、世界を代表するワイン&スピリッツカンパニーの一つである〝モエ・ヘネシー〟が所有するコニャックメーカーである。コニャックは、フランスのコニャック地方で産出されるブランデー。原料のブドウには主にユニ・ブランが用いられる。伝統的な銅製のポットスチルを用いた単式蒸留を2回行って得られたアルコール度70%程度の精留分を、フランス国内産のオーク樽で2年以上熟成し、水で40%に希釈して製品とする。芳しく滑らかな口当たりと深いコクを持つ高級ブランデーとして、アルマニャックと並んであまりにも有名である。
日本から空路12時間。シャルルドゴール空港を経てモンパルナス駅よりTGV(高速鉄道)で約3時間、アングレームの駅に到着。そこから車でさらに走ること1時間、コニャックに到着した。車窓からはレミー、カミュ、マーテルなど有名なメゾンがいくつも見えるが、それ以外は何もない。まさにコニャックの製造が産業の中心となっている、人口は2万人にも満たない静かな土地なのだ。
若干の時差ボケに朦朧としながら、我々は町の中心に宿泊し、翌日からのヘネシープログラムに挑むこととなった。
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コニャックの玄関口「アングレーム駅」
TGV(高速鉄道)でパリより3時間
存在感たっぷりの大きなフラッグ
ウェルカムドリンクはV.S.O.Pのジンジャーエール割
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まずはブドウ畑を訪問する。コニャックの町を中心に半径50㎞がコニャックの原料の産地である。その96%がユニ・ブラン(白ブドウ)。この地域にはおよそ4800軒のブドウ生産農家が品質を競いつつコニャックメーカーと契約を結んでいるという。ヘネシーはその内、約1500軒と契約を結んでいる。各契約農家に対し求める品質を維持する為に、多岐に渡る詳細な品質基準を設定し、その基準をクリアしたもののみがヘネシーの原料として使用される。
収穫されたブドウは集荷後、醸造されワインとなり、そのワインは蒸留所に持ち込まれ、二度の蒸留を経てスピリッツとなる。蒸留所には使い込まれた同一サイズの蒸留器がずらりと並び、絶え間なく無色透明のスピリッツを産み出している。聞けばこの規模の蒸留所が3カ所あるというのだから、どれほどの量のスピリッツを扱っているのか、想像を絶するとはまさにこのことを言うのだと思った。
1900年代初頭の樽も豊富に存在する
多くのスチルが並ぶが、全て同じサイズに統一されている
使い込まれ少し黒ずんだスチル
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ヘネシープログラム最大の見せ場と聞いていたセラーの内部の見学に臨む。シャロント川沿いに立ち並ぶセラーは厳重にセキュリティが掛けられている。アンバサダーのジャン曰く「ヘネシーの素晴らしさは貯蔵しているコニャックの量と幅だ」とのこと。2重のセキュリティの先には1830年に樽詰めされたコニャックを筆頭に1800年~1900年代初頭のものが多数存在する。それを毎年、リシャールやパラディなど、ヘネシーの中でも高級品を製造するために僅かずつ使用されているそうだ。
ブランデーの熟成に樽の存在は無視することはできない。そこで、ウイスキーの蒸留所と同様、ヘネシーも自社のクーパレッジ(樽工場)を所有し、樽職人が日々樽造りとメンテナンスを行っている。
毎日多くの試飲を行いブレンドを決める
テイスティング・コミッティー(評議会)の部屋
今回訪問し2日目に訪れた「シャトーバニョレ」はヘネシーが所有するシャトー。ゲストハウスとして、新商品の発表の場として、ヘネシーの歴史の舞台となってきた。
ヘネシーは非常に落ち着いた時間と高揚感を与えてくれる、これぞ嗜好品という酒。コニャックの風土と共に育まれたこの素晴らしい味わいを一人でも多くの方に、召し上がって、実感していただきたいと、今更ながら強く思った。
文/スピリッツバイヤー 伊藤
なんと186年前(1830年)のコニャックが‼
クーパレッジでは大きな樽をメンテナンスする女性の姿も
創業者のリチャードヘネシーの肖像画が飾られている
鴨のローストはヘネシーX.Oの水割りと相性が良い
ヒラメのタルタルには
V.Sのソーダ割りと相性抜群ボルドーの牡蠣は大振り。X.Oを 「ちょいがけ」すると旨さが際立つ